池波正太郎をめざして

読書の栞

日々の読書の記録、感想を書きます。

高村薫「黄金を抱いて翔べ」

 

簡単に書いてしまえば、大阪を舞台にした犯罪小説である。

銀行にある金塊を強奪するという話だ。

とはいうものの、実際に強奪をするシーンはそれほど多く描かれておらず、どちらかといえば、計画に参加した人物たちの人生を描くことに注力している印象だ。

金塊を強奪することを中心に据えたかったら、それを遂行して行く上でのトラブルを書いていけばいい。

つまり高村薫は群像劇が描きたかったのだ。

人物は大阪の片隅にくすぶっているようなやつらだ。

裕福な人物もいるが、なんとも胡散臭い。

学生運動をやっていた人物。もと某国のスパイ。肉体労働者。

静かに過ごしていたのに、犯罪の匂いのせいか、伏せていた過去が一気に追いかけてくる。

金を得ることがストレートな動機ではない。初期メンバーはそれほど金に困っていない。

なんとなく暴れたい。そんな不埒な動機だろうが、動機についてははっきり書いていない。それがレディージョーカーと違うところだ。

 

それにしても実際に銀行に金塊が保管されているものだろうか。

どうして現金じゃなく、金塊なのか。

実際に強盗をしても、現金だと後で足がつくからだろうか。

ロンダリングが厄介だ。

それなら、外国で金を取るに変えた方が現実だからか。

 

作家のテーマは初期に決定され、それがあまりぶれることはない。犯罪小説や警察小説という形態を取りながら、あくまで高村薫は人を描く。それも特別な人物ではなく、市井の人だ。みな何かを抱え、何かから逃げている。みなそういうものである。市井の人を見つめる高村薫の視線は常に優しい。

 

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

黄金を抱いて翔べ (新潮文庫)

 

 

 

 

にほんブログ村 本ブログ 読書日記へ

プレジデント二〇一七・五・二九号「孫子の兵法」

 

先ほど報道で、小池都知事が脱藩じゃなくて、自民党を離党した。

 

www.msn.com

 バックナンバーになって申し訳ない。

先日締め切りの短編小説の集いの作品を書いていてなかなか読めなかったプレジデント。普段買うわけではないが、「孫子」の文字を見て衝動買いしてしまった。

 

小池都知事孫子の兵法に小さな頃から親しみがあったそうだ。お父さんは貿易商であった。その後、石原慎太郎が新党を結成することをにらんで、その前段階の会の推薦を受け、神戸から立候補するが落選する。その父が、小池百合子が幼少の折、「日本は戦略をもたなくてはならない」と戦略について話していたそうだ。そして小池自身、「丸」という今では軍事専門誌、かつては総合誌だった雑誌の愛読者だった。またマーケティングも好きなのだそうだ。「孫子」関連本も多くもっている。

これまでの都知事選を「孫子」になぞらえて池上彰とともに解説していく。

が、そのなかに「勝兵は先ず勝ちて而る後に戦いを求め、敗兵は先ず戦いて而る後に勝ちを求む」というのがある。戦う前に十分な準備をしてから戦うものが勝つというものだ。当たり前のように聞こえて、案外できないものだ。

また、「始めは処女の如くにして、敵人、戸を開き、後には脱兎の如くにして、敵、拒ぐに及ばす」という言葉も出てくる。池上彰が対談を振り返って書いたエッセイの中に出てくる。

つまり、敵の油断を誘っておいて、あとは速攻するということだ。

二つの言葉を合わせると、小池百合子の脱党ではなくて離党は、「準備が完了した」ということを示す。

離党という記事を見て、ちょっとにやっとしてしまった。

小池百合子の都知事選を見ていて思ったのだが、一番好感を持てるのが、公約などに「女性(のみ)が活躍できる社会」とか「生活者視点」とか、政治ができるわけないことを書いていなかったことだ。

www.yuriko.or.jp

別に自分が女性なんかどうでもいい、と思っているわけではない。「女性中心」といえば男性が除外される。男性でも同じだ。若者といってもいいし、老人といってもいい。面白いことに、「全員活躍できる」と書いている。「人の耳目を一にする」と言う言葉に沿っているのかもしれない。これは「将卒の統率が大事」という意味だ。だれも自分に関係のない言葉には注意を払わない。

 面白いと思ったので興味のある人は読んでみるとよい。

 ただ、後半はいただけなかった。

 

ソフトバンク孫正義孫子が好きだ。その思想を、二五文字の漢字にして示した。問う話は有名だ。そこから孫正義の略歴が語られる。大体みな知っているだろう。

 

そして、個人の生き方に「孫子」はあてはまるかという特集が為されていた。

そのあとは、色々な業種の企業が危地をどう脱したか、斉藤孝が解説する「頭の良い子どもを作る方法」というのはどうでもいい。というか、興味のある人間は見ればいい。ほとんど孫子の言葉は付け足しである。結局、成功する前に孫子を利用して動き勝たないと、意味がない。

問題は個人の生き方に「孫子」は通用するか、だ。

例えば、「リストラを命じられたらどうするか」などというケーススタディになっている。そこに書かれた正解は「まずは残したい部下と面談し、味方を作れ」である。ただ考えてほしい。上司はあなたのことが大切な部下だと考えたら、恨まれるリストラなどを頼むだろうか。それにリストラをした上司に部下が信頼をよせるかどうかは、ある種の賭だ。特に今の若手はすぐに職場を去るのだから、一気に冷めて辞めてしまう可能性もある。

だから、答えは「あきらめて粛々とリストラをする」である。おそらく部下に嫌われるだろうが、それはしかたがない。

このあたりを読んでちょっと冷めた。

 

にほんブログ村 本ブログへ