池波正太郎をめざして

読書の栞

日々の読書の記録、感想を書きます。

「水木しげるの戦記選集」

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 コンビニで売っていておもわず買ってしまった。

戦記物というのは戦国時代の武将の伝記と同じで、勇ましく書いていく。

水木しげるの戦記もそうである。

主に海軍の戦記を扱っている。

そうなのだが、選集大激闘編の冒頭では、おそらく90年代半ば以降の水木しげる翁が登場し、その頃に流行った小林よしのりのゴー宣を読んだときの複雑な心境を語る。

 

新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論

新・ゴーマニズム宣言SPECIAL 戦争論

 

 ゴーマニズム宣言で描かれた戦争は、勢いが良く面白い。だが、水木翁に言わせれば、本当に戦争に行った人間が書いたものではない。

「ビンタの力」によって無理矢理行われた戦争を、まったくは肯定できないものであると水木翁は考えるのである。

 

水木しげるの戦記は、そんな筆者の思いがどこかに乗る。登場人物の一人を紹介する。

真珠湾攻撃を成功させた山本五十六

日本軍は「大艦巨砲主義」を取る者が多かったが、はやくから戦闘機の可能性に着目し、実際に訓練し、それによって作戦を成功させる。そのまま戦闘機開発を続ければ、戦況も変わったであろうが、日本は大艦巨砲主義に傾く。

もともと、五十六自身、アメリカとの戦争に反対していた。国力が違いすぎることを実際にアメリカで見てきたからだ。それでもやらなければならない、悲壮感が作品に描かれる。

このようにゴーマニズム宣言とは対局に、負けに向かって進んでいく悲壮感が前面に出ている作品集である。つまり、戦闘の勇ましさを描きつつ、反戦の思想が現れているのである。

ゴーマニズム宣言とは違う疲労感を読み終えると感じる作品でもある。