池波正太郎をめざして

読書の栞

日々の読書の記録、感想を書きます。

山田風太郎「伊賀忍法帖」

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伊賀忍法帖 山田風太郎忍法帖(3) (講談社文庫)

1、あらすじ

この作品の面白さは、すべての男の登場人物が女によって失敗するということだ。惑わせた女は三人、篝火、漁火、右京太夫だ。

篝火は遊女であるが、非常に人気のあった遊女だ。若い伊賀忍者である笛吹城太郎と出会い、夫婦になると誓い合う。伊賀忍者には所帯を持つにも許しがいる。その許しを伊賀忍者の棟梁、服部半蔵から得ようと、篝火と城太郎が伊賀の里へ向かうところから物語は始まる。

二人は奈良に入ったところで、七人の坊主に襲われる。七人の坊主は根来寺の僧兵の格好をしている忍者である。その忍術は果心居士という伝説の忍者から授かった。城太郎は半蔵から特に目をかけられた忍びであったが、七人に襲い掛かられ、負けてしまう。篝火は七人に連れ去られる。

七人が向かった先は、松永弾正が待つ、信貴山城だった。

七人は果心居士の命令で松永弾正の望みをかなえようと奔走していた。そのためには女人の体が必要だった。それも何人も、何人も。(規約上、これ以上詳しく書いていいかわからないのでかなりぼやかす。察してほしい)その体から集めたエキスを、名器「平蜘蛛の釜」で煮詰めると淫石という雲母のかけらのような石を集めようとしていた。それを混ぜたお茶を女に飲ませると、飲んだ直後に見た男に惚れてしまう。惚れるというより狂ってしまう、という恐ろしい石だ。

どうして松永弾正が淫石を欲するのか。それは右京太夫という女が欲しかったからだ。右京太夫三好義興の妻だ。松永弾正は三好家の家臣である。つまり、主人の妻に松永弾正は懸想していた。

篝火の体は普通の女人数人分のエキスが出る。だから、七人に狙われたのだ。

 

篝火は城太郎と夫婦になると決めたときから貞操を守ると決めた。連れ去られ、それを侵されそうになったとき、城太郎から仕込まれた忍術を使って、自分の首を切り落とす。だが、七人の根来僧のうち、外科的な忍術を使える者がいて、篝火の首と漁火の体を、篝火の体と漁火の首をつなぎ合わせた。実は篝火の顔は右京太夫そっくりなのであった。篝火を見た松永弾正は篝火を七人に供するのを良しとせず、自分のものにしようと考えた。根来僧は篝火の体が欲しかった。松永弾正は篝火の顔が欲しかった。皆の需要は満たされた(松永はこれで納得するのか、と不思議だったが、納得するのである)。

 

さて、七人に負けた城太郎は、からくも一命をとりとめる。助けたのは、柳生の里の主、柳生新左衛門であった。のちに服部半蔵からの命令もあり、城太郎は七人に復讐を誓う。

 

というのが長々書いたあらすじだ。

 

2、感想

かなり複雑だ。だが、間違っているかもしれないが、山田風太郎はこの話を頭から、付け足し付け足し書いているような気がする。

 

城太郎、松永弾正、根来僧の七人、そして三好義興までもが登場する女性に翻弄され、失敗しているように思う。主人公城太郎がまず、許しを得ていないのに、勝手に許されると勘違いして篝火を伊賀の里に連れて行こうとしていることが失敗だし、松永弾正が主人の妻にまで懸想するのも間違い。

そんななか果心居士だけが笑っているように見えてくる。男には三種類の急所があるといわれる。いわゆる「富・名声・地位」だ。これに加えて女なのであるが、これは入れられていない。実際には、これも入るだろう。松永弾正は女も加えた四つの急所、すべてにおいて弱い。

3、司馬遼太郎山田風太郎

この本を読もうと思ったきっかけは、沢木耕太郎のエッセイ集だ。伊賀忍法帖司馬遼太郎の「梟の城」を比べて、伊賀忍法帖のほうがおもしろいと書いていて、ならば読んでみようと思った。

エグイ内容なのに、スイスイと読まされてしまう文章力こそが妖しいと感じてしまった。山田風太郎は「金瓶梅」を読んで懲りた。もう読むまいと思っていた。が、懲りずに読むと、やはり山田風太郎だった。エロ・グロのオンパレードなのである。それも慣れてくるとなんてことはない本だ。若干忍術の描写などが子供じみている。

この本、「漫画サンデー」に連載していたらしい。この本、「湯けむりスナイパー」を連載していた雑誌だから、青年以降に読む雑誌か。はじめ、少年誌に書いていたのかと思った。それにしては刺激が強すぎる。

最終的に山田風太郎司馬遼太郎、どちらが上かという話だ。結局、好みなのであるが、文章力や想像力(妄想力?)では山田風太郎の方が上なのかもしれない。司馬遼太郎はどちらかといえば、在野の歴史研究家の趣で、その名前の通り、司馬遷(にはるかに及ばないから遼太郎)のような文章を書いていた作家だ。タイプが違うのである。

小説家としては断片の情報から想像力を膨らます山田風太郎の方が上だろう。

司馬遼太郎は情報量の多さで勝負するタイプだ。「坂の上の雲」を書くとき、神田の古本屋買いにトラックでやってきて、資料を買いあさっていったという。だから、情報量では司馬遼太郎の方が上だろう。

どちらがおもしろいか。それは甲乙つけがたい。

個人的には司馬遼太郎だろうか。男女の痴情を描くにも、山田風太郎はなんともグロくて、それが自然の営みである気がしないのである。描くのであれば、そのくらいカラット描かれている方が好みだ。

 

 

 

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 ※当然、角川映画なのでテレビなどでもやることを考慮に入れて、エロ・グロのあたりはかなり薄まっている。見て面白いかどうかは微妙。