池波正太郎をめざして

読書の栞

日々の読書の記録、感想を書きます。

羊と鋼の森

 

「羊と鋼の森」

 宮下奈都

 

 新米調律師外村の修行を描く。

 天才調律師板鳥はある日、外村の高校の体育館のピアノの調律に訪れる。考査中にも関わらず、ピアノの所まで案内するように指示された外村は、板鳥の調律に戦慄し、将来は調律しになることに決める。

 外村は元来無欲の人だ。しかし、いろいろな家庭で調律し、うまく行かなかった経験、人々の出会いから、調律師の仕事というものの、深淵に触れていく。

 

 感想

 読んでいて、はじめに全体的な構成を練ったのではなく、頭から順々に書いていったのではないかと思った。インタビューでそう答えていた。

 

hon.bunshun.jp

 

 個人的にはその書き方は好きだ。ただ書き手としては、不安で仕方がなかったかもしれない。ゴールが見えないのは意外ときついのだ。

 インタビュー中、「一人称で書くとき、主人公の心情に関しては嘘を書きたくないと思って書いているのに、これは嘘だよ、と言われるのは痛い」という主旨の部分を読んで突き刺さった。宮下さんほどの文章書きではないにせよ、最近そういう痛みを感じたので、その回復の遅さはよくわかる。

 放っておけば良いのだ。この作品だって、「こんな純粋で性欲のない若者はいない」ということを言い出すヤツは存在するのである。でも、そこは筆者に乗ってあげなくてはいけない部分だ。

 

 構成を最初から最後まで決めないで書く手法をとったためか、どのシーンをとっても、短編として成立しているのがすばらしい。

 最終的に、「由仁、和音」の双子の話に集約していくのだが、久しぶりにピアノを楽しそうに弾く青年の話をもう少し広げるかなと思った。きっと双子に対する筆者の思い入れが強かったのだと思う。

 クライマックスの部分で、今まで学んでメモに取っていた言葉を反芻しながら調律するのだが、その文章自体が音楽になっていて、読んでいて気持ちが良かった。

 全体的に文章に対して誠実である筆者の人柄がにじみ出ていた。

 

 

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