池波正太郎をめざして

読書の栞

日々の読書の記録、感想を書きます。

「素顔の池波正太郎」感想。

 

 

 池波正太郎といえば、温厚篤実な人柄で知られる。

 本書ではそうではない、人間味のあふれる池波正太郎が垣間見られる。遅刻嫌い、愚図嫌い、短気。よそ行きでない池波正太郎はとてもおもしろい人物だ。

 

 本書を書かれた佐藤さんは池波正太郎の押しかけ付き人を十年間務めた。

 その十年間の池波正太郎との思い出を、池波正太郎死後に綴った本だ。佐藤さんが食物に対する造詣が深く、(失礼だが)執着も強いからか、一緒に食べたときの思い出が数多く書かれる。

 ただ、「食欲」は三大欲求の一つだけあって、これがどうであるかを描くということで人となりが分かる。

 

 池波正太郎の食べ方の基本は「温かいものは温かく、冷たいものは冷たく」である。ただ値段の高い贅沢なものを食べるというのではなく、食べ物に対する一期一会を尽くすというスタンスだ。

 だから、佐藤さんも連れて行かない寿司屋というのがあるのだが、その店は、値段もさほど高くない(銀座にしては)のであるが、周囲の名だたる寿司屋の店主の師匠筋である店だったりする。

 江戸の粋を大切にする作家である。様々なところで、池波はポチ袋を配る。大中小の三種類。それぞれ金額が違う。それはフランス旅行でも行われる。佐藤さんはカタコトにも届かないフランス語で池波の通訳でついて行くのだが、ポチ袋を配るのは佐藤さんの役目。もらった方は、ポチ袋を配ったのが佐藤さんだと思う。

 それで荏原の大先生(池波は荏原に住んでいた)は大激怒する。それをなんとかフランス語で誤解を解く。ただ、ポチ袋自体がオリジナルで作られた和紙の本物であるし、お金は入っているし、でフランスでも好評だったらしい。

 

 小説のなかの鬼平もチップを多く払う。その様子がよく似ている。

 

 ちなみに、ポチ袋のポチとは「これっぽち」のポチである。少ないという意味だ。江戸の粋として、ポチ袋を出す方が、「これだけですいません」という引いたスタンスでお金を出す。それが粋なのだ。

 寿司屋でも、トロを連続で頼むのは粋ではない。トロというのは原価が安く、もうけが少ないネタで、もしもトロをもう一回食べたかったら、「ごめん、もう一ついい」と頼む方が謙譲して頼む。

 金を出したからって、ふんぞり返って食べるのは田舎者のすることなのだ。

 

 結局、池波正太郎の生き方が、江戸を描いた作品、「鬼平犯科帳」「剣客商売」「必殺仕事人」などに反映されている。この本は、初心者用の池波作品の解説になっている。

 本当の江戸っ子というのを知るのに、同書は参考になると思う。是非、一読を。

 

素顔の池波正太郎 (新潮文庫)

素顔の池波正太郎 (新潮文庫)

 

 

 

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