池波正太郎をめざして

読書の栞

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芥川賞受賞! 本谷有希子「異類婚姻譚」感想です。

 

本谷有希子異類婚姻譚

概略

ある日、PCのなかの画像を整理していて、妻である自分と夫が似てきていることに気づく。それから、ことあるごとに夫の顔が微妙に変化していることにきづく。

夫はバツイチである。先妻と離婚した理由は、夫が無理をしすぎてもたなくなったからだと、本人は言う。だから、今の主人公との生活では、「テレビを必ず三時間見る」など夫自身のだらしなさを隠さないことにしている。

妻は初婚で、そんな夫の行為を心を開いている、と勘違いしていた。が、今は夫の自堕落を許してしまったことをちょっと後悔している。二人には子供がいない。しかも夫の稼ぎがいいので専業主婦として悠々と生活ができている。それに引け目を感じている。主人公の人物設定は流されるだけ流されるタイプで、色々な人が巻き起こすものを全部受け入れてしまう。

夫の顔のパーツは徐々に移動していっている。やがて、二人は完全に入れ替わってしまう。

 

感想

 概略は本当に概略で、作品中に張り巡らされたいくつかの伏線については触れていない。ただ、説明をする上で必要なので、一つだけ伏線を書く。それは「途中から先妻とコンタクトを取っている」ということだ。それがどのくらいの強さ、深さなのかは分からない。が、縒りを戻そうというところまで行っている気がする。

 他の伏線は最終的に回収されているのだが、この伏線だけが回収されていない。最後は幻想小説風に終わるのであるが、これが「縒りを戻した」とも「そのまま奇妙な状態になった」ともとれる。

 概略で「夫の顔のパーツは徐々に移動していっている」と書いた。これを錯覚だとは書いていないのである。自分の顔を毎日見ていれば分かるが、人の顔は浮腫んだり、逆に痩せこけたり、微妙に毎日変化している。だから、錯覚だったり、通常の微妙な差として処理しても構わない。だが、そういう風には処理していない。つまり、筆者は「現実に起こったこととして取ってくれ」というメッセージを出しているのだと思う。

 つまり、本当に最後にあったようなことが起こったのだと素直にとっても私は良いのだと思う。ここが面白いところだ。

 

 作品の底流には、「結婚はあまりよいことではない」、「だらしない人間はペットを飼うな」、「男は絶対浮気をする」など、否定的な思想が存在する。この出し方がちょっとあざといなと思った。自然と沸き上がったというより、意図的な配置をして話題を呼ぼうという意図が見え見えである気がするのである。そこがちょっと不快だった。

 なぜなんだろう、と考えると、それは主人公がある出来事によって発見するという書き方ではなく、自明のこととして書かれているからではないだろうか。要するに、押しつけがましいと感じた。