池波正太郎をめざして

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読書の栞

日々の読書の記録、感想を書きます。

「赤めだか」 立川談春著。たけし&二宮のドラマを見てもおもしろいよ。

 

 昨年末二十八日に、本書「赤めだか」を原案としたドラマが放映された。

 

おすすめ1 ドラマとの違い

 主演立川談春に嵐の二宮和也、師匠である立川談志ビートたけし立川志らく濱田岳、兄弟子に宮川大輔北村有起哉香川照之立川志の輔)と豪華なキャストだった。今回はドラマについてがっちり紹介するのは本意ではないので、内容については割愛する。ただ、原作というより、“原案”というのが正確なところであろう。本書とドラマでは設定などに多くの変更点がある。

 弟子入りする前の少年期の談春についてはほぼ語られておらず、築地の魚河岸での修行に至る経緯は変更されていた。なぜか魚河岸の大将は消滅し、その代わり必要かどうか分からない娘が追加されていた。その後別にその娘と結婚するのかどうかは不明である。奥さんがいるのは間違いないらしい。

 たぶん多少は色事もなければ視聴者は食いつかない、とかなんとか脚本家が要らぬ気を回したか、アドバイスされたか。

 なにかを身につけようと粉骨砕身しているときに、恋愛もくそもないのである。そんな余裕かませるのは、サラリーマンくらいなもの・・・・・・、そうか、だから世はどんどん晩婚化しているのだろう。サラリーマンも当然、自分が修行期間を抜けたという実感がなければ、結婚などする気が起きないだろう。それが日本の文化なのかもしれない。殊勝である。エライ!!

 また、どうして余計な変更をするのかといえば、理由はもう一つある。それは「物語」として、しかも一般視聴者が「オモチロイ!!」となる「物語」を仕上げる必要性があるからだ。

 

おすすめ2 語り手談春の人間味

 元根多はエッセイで、しかも講談社エッセイ賞も受賞している。文章がとても上手いのである。もちろん、書き言葉とは話し言葉の延長なので、話し言葉がおもしろい人間は必然的におもしろい文章になる。なぜそれだけおもしろい人物になったかは理由があり、それはこの本に書かれている。

 

 落語を聞いていたのは、江戸時代の庶民である。江戸時代の江戸は、「武士と庶民の人口比率が3:7、それぞれの土地の所有率は7:3」という冗談のような話がある。しかも、封建時代で戦もなく、つまり立身出世しようがない世界だ。商人以外。その商人も出世するのはとてつもない人だけで、普通の人は縁がない。家も江戸市中では持てない。子どもは学校もない。試験もなんにもない。ん~♪

 だから、庶民を慰めるような物語が必要だった。だから、落語のようなものが発展していったのだろう。談春はそのような世界と親和性があった。

 

 周囲は職人だらけで、背広を着て仕事に行くことが想像できなかったという少年であった談春。ドラマでも出ていたが、落語というのは「三百人以上いた忠臣蔵赤藩士のうち、討ち入った四十七士ではなく、「無理だ」とバックレちゃった方を描く話」なのである。それは「分かっちゃいるけどやめられない」の世界だ。呑むなと言われても呑むし、喰うなと言われても喰うのである。 (一応男限定)全てを失うと思っても、性欲に負ける。不倫もする。分かってるんだけどね。そういう生きている限り続く人間の業の肯定をするのが落語家、落語の世界だ。この世界となじむ人間がおもしろくないわけがないのである。周りが職人だらけということで、メンタルはそちらに育っていったのだろう。だから、サラリーマンになるという発想自体がないのだろう。今は、逆に職人になるという発想がないのが大半の若者であるから。

 ちなみに都市郊外に住み、怠惰な生活を送る身としては、これがよく分かる。

 

 父親も面白い人だ。談春ははじめ、落語家ではなくて競艇選手を目指していた。それは父の影響だ。談春は父に連れられて、小っちゃい頃から競艇場へ行っていた。競艇場にて配られるチョコフレークが目当てだった。ある日、チョコフレークからビスコにお菓子が変更になった。談春は悲しくて泣きわめいた。業を煮やした職人の父親が山ほどチョコフレークを買った。その代わり「全部食え」厳命を下した。談春は四つまではなんとか食べるのだが、そこからは食べられず、鳩にくれてやった。それでも残った。その様子を見ていた父親が一言。

「菓子をほしがるのは子供の権利だが、権利を主張するなら義務がついてまわるんだ。覚えておけ。ひとつも残さず喰え」

 分かるだろうか、たぶん父親は泣いてせがむ子供がうっとうしく、ストレスだったのだろう。その子供に父親なりの意趣返しをしたのであって、それだけに止まらず、そこに大上段の理屈を付けた。それに、これには「周囲の目」という発想がない。まだまだ昔とはいえ、普通のサラリーマンがショッピングモールでは絶対にできないだろう。

 ただ、彼の周囲ではこれが当たり前の感覚なんだろう。

 この職人気質の父親の性分がシャレ好きの談志に似ている気がする。談春が談志の弟子入りすると言うと、父親は「よりによって談志か・・・・・・」と言ったそうだ。このお話はバブルに入る頃の話である。もう落語は皆が聞くものではなくて、好きな人間が意識して聞く者だ。今と事情は変わらない。父親はもしかすると落語をよく聞いていたのかもしれない。いや、それとも政治家時代の風聞だけを聞いていたか。よく知っているならば、自分の子どもを入れるならば、談志よりもライバル古今亭志ん朝じゃないのかと思っただろう。

 談春は自然とそういう世界になじんでいたのかもしれない。

 

おすすめ3 日本の組織の底にもある、徒弟文化

 さて、何を書きたいのか分からなくなってきたのでそろそろしめる。

 ドラマでは前座から二つ目昇進までで終わる。元根多では真打ち昇進までいやもっと先まで話が出てくる。

 書き出すまでは、日本の徒弟文化と、企業における修行の類似をテーマに本書を薦めようと思った。が、どうしてか談春がどうしておもしろい人間になったのかで終わってしまった。

 最近知人の職場で二十代の新人が、「先輩(四十代)から仕事を押しつけられるし、仕様などを後から変更するのがやりきれない(やるせない)から辞めます」と退職してしまった。それを聞いて、「おいおい、そうか。だいたい、修行のために先輩が多くの仕事を新人にさせるのは当たり前だろう」と思った。知人と日本の職場文化をまるで理解していない、という話になった。

 あなたの言う、「パワハラ」、「修行」の間違いじゃない? と指摘する材料に本書を仕えという主旨のあくまでジョークを書こうと思ったが、やっぱ書かなくてよかったかもね。この厳しい昨今、こんな理屈が通用するわけもなく、最終的には先輩の方が変わらなければならないということになるんだろうし。

 ある種、古いけど日本の全ての文化に通底している話。ドラマを見ても、おもしろいよ。

 

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